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麻木
本日は物理学の最先端研究を行っている、東京大学宇宙線研究所にお邪魔しました。まずは簡単に研究所の目的や概要をご紹介頂けますでしょうか。
小汐
当研究所の研究対象である「宇宙線」について説明します。宇宙空間には目に見えない原子核や電子、陽子などの素粒子が存在しており、私たちが住む地上にも降り注いでいます。また、こうした素粒子が大気中で反応を起こし、二次的な素粒子が生まれることもあります。前者を一次宇宙線、後者を二次宇宙線と呼んでいますが、これらの素粒子を観測・研究することで、物質に働く力や宇宙の成り立ちなどを調べることができるのです。
当研究所では、取り扱う宇宙線の種類によって、それぞれ研究部門が分かれています。具体的にはニュートリノ研究を行う「宇宙ニュートリノ研究部門」と高エネルギー宇宙線の研究を行う「高エネルギー宇宙線研究部門」、それに物理学の基礎的な研究を行う「宇宙基礎物理研究部門」の3部門で活動を行っています。その研究を円滑にすすめるために、ニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」が設置された神岡宇宙素粒子研究施設をはじめ、様々な付属施設を保有しています。
麻木
小柴昌俊名誉教授のノーベル賞受賞で、一般にも知られるようになったニュートリノですが、今までどういう研究の歴史を辿ってきたのですか。

小汐
その存在自体は、1930年頃に既に予測されていました。原子核崩壊のあるパターンを観測すると、崩壊後のエネルギーを全部足しても、元のエネルギーに足りません。これではエネルギー保存の法則に反するので、他に何か見えない物質があるのではと考えられました。これがヴォルフガング・パウリによる「ニュートリノ仮説」です。その後、1956年にライネスとコーワンが原子炉から来るニュートリノを観測したり、1960年代後半~1970年代にかけてデービスが地下で太陽ニュートリノの観測を行っています。
さらに1980年代にはいると、日本にスーパーカミオカンデの前身であるカミオカンデが建設され、1987年には、星の寿命が尽き最後に起こす超新星爆発によるニュートリノが初めて観測されました。このことが、小柴先生のノーベル賞受賞理由の一つにもなったわけですが、実はいま名前を挙げた他の研究者もノーベル賞を受賞しています。
麻木
ノーベル賞受賞者が他にも!それだけ物理学的に意義の大きい研究だということなのですね。ちなみに、日本はこの分野でどれくらい活躍しているのでしょうか。
竹内
日本はこの分野で世界のトップを走っていると言っていいでしょう。スーパーカミオカンデのような地下研究施設は、どこにでもあるというわけではないのです。特に大規模な施設となると、世界中探しても10ヶ所もありません。最近では、加速器で人工的に作ったニュートリノビームを数百キロメートル離れたニュートリノ検出器に向かって打ち込み、その結果を観測するといった実験も行われています。このような実験も日本で最初に行われました。
麻木
え!つい数十年前まであるかないかを議論していたのに、もう人工的に作って研究するところまで来ているんですか。それはすごいですね。
さて今回は、このニュートリノ研究を支えるシステムを再構築されたとのことですが、これはどのような課題があったのでしょうか。
小汐
システムは5年単位で更新を行っているのですが、ニュートリノ研究では非常に大容量のデータを使用するため、旧システムの能力ではかなり厳しい面が出てきました。そこで今回の更新を契機に、大容量データをもっと効果的に活用できる環境を実現したいと考えたのです。

麻木
大容量データを研究で使用するとのお話ですが、このデータというのはスーパーカミオカンデの観測データということなのですか。
竹内
その通りです。スーパーカミオカンデは、直径39.3m、高さ41.4mという巨大な円筒型タンクに満された純水と11,000本以上の光電子増倍管で構成されており、ニュートリノと水分子が反応する際のチェレンコフ光と呼ばれる微弱な光を観測しています。しかし、ニュートリノ反応を観測できるのは、せいぜい1時間に1~2回くらい、1日に20-30回くらいというところです。このため、24時間・365日ノンストップで観測し続けなければならないのです。もちろん反応が起きない間もずっとデータは取り続けていますから、その容量は1日あたり50GBにも達しています。
麻木
毎日、50GBものデータが溜まり続けていくと、膨大なデータ量になりますね。
竹内
しかもただ単にデータを溜めておくだけではなく、時には過去のデータを再解析したい場合もあります。ところが旧システムでは、メインのストレージに磁気テープを利用していたため、データを読み出すのがまた一苦労だったのです。たとえば、数年分のデータを再解析しようと思ったら、それだけで半年掛かってしまうような状況でした。

麻木
データの再解析に半年!その間はずっと待っていないといけないんですか。
竹内
もちろん、その間は別の作業や研究も行いますが(笑)。とはいえ、やはりこうした状態はあまり好ましいものではありません。そこで今回の新システムでは、メインのストレージを、磁気テープからディスクにしたいと考えました。
また、もう一つポイントとなったのは、システムのパフォーマンスです。今述べたような大容量データの解析を行いますから、システムの処理能力は高ければ高いほど望ましいのです。解析結果が早く出力されるようになれば、それだけ研究にもいい影響が期待できますからね。
麻木
具体的にはどのようなシステムを導入されたのですか。
竹内
まずストレージについては、富士通の「ETERNUS」を導入し、700TBの容量を確保しました。これまでテープに溜めていたデータが550TBでしたから、これをすべてディスク上で活用することが可能になったのです。
また、サーバについても、富士通の「PRIMERGY」ブレードサーバと基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」を新たに導入しました。PRIMERGYブレードサーバは解析作業を担当する計算サーバで、270台のサーバによるPCクラスタを構成しています。各サーバにはデュアルコアCPUが2Way搭載されていますので、システム全体では1,080コアによる並列処理が可能です。
PRIMEQUESTはファイルシステム管理サーバで、計算サーバの処理結果を高速転送する役割を果たしています。もっとも、一口にファイル転送と言っても、1,000以上の処理が並列に走るとなると、ファイルアクセス時の負荷はかなり大きい。もしどこかにボトルネックが生じると、システム全体のパフォーマンスを下げる要因になりますから、今回は富士通の高速分散ファイルシステム「Parallelnavi SRFS for Linux」も導入し、計算サーバからの同時大量アクセスを高速に処理しています。

麻木
富士通のソリューションを採用されたポイントはどこにあったのですか。
竹内
基本的にはCPU能力とデータ転送性能を重視した入札だったわけですが、その中でも中身の濃い提案をもらったと思っています。たとえば、高性能・高信頼性の追求はもちろん重要ですが、今回の再構築ではシステムの省電力性も強く意識しています。その点PRIMERGYブレードはこうした面でもメリットが大きく、電気代削減などの効果も期待できます。最近では大学でもコスト管理が強く求められますので、ランニングコストの低減も図れるのは非常にありがたかったですね。また、信頼性においては、常に予備サーバを待機させ、万一の場合にも、予備機への切り替えなどの自律システムが働きますし、富士通が24時間365日のバックアップ体制を敷いてくれているので安心です。

麻木
新システムの導入効果はいかがですか。
小汐
処理速度は以前に比べて格段に速くなりました。解析作業を行う際にはパラメーターを変えて何度も計算をし直すのですが、旧システム比で35倍も性能がアップしたため、こうした作業も非常にやりやすくなりました。実際に1000個のジョブを並列に走らせる解析作業も始めています。さらに基幹IAサーバPRIMEQUESTとストレージシステムETERNUSとを連結させたファイルシステムでは、1080並列アクセスという高い負荷においてもデータ転送速度毎秒900MBという高いレベルになっています。システムの本稼働からまだ間もないので、本格的な活用はまだこれからですが、今後が非常に楽しみです。
竹内
やはり、要望通りのシステムが実現できたことが嬉しいですね。以前は数年分のデータを読み込むのに半年掛かっていたと申し上げましたが、現在では同じ作業を数日で終えられるはずです。これなら解析データを頻繁に見直せますので、新たな発見にもつながるかも知れません。
麻木
また、小柴先生の時のような超新星爆発が起きてくれるといいですね。
竹内
我々も首を長くして待っているんですが(笑)。以前のカミオカンデで観測できたのは11イベントでしたが、もし今度銀河中心で超新星爆発が起きたら8,000イベント分のデータが取れます。そうすると、超新星爆発の細かいメカニズムを解明できる可能性が高いのです。ただ、ニュートリノが観測できる時間は、10秒程度しかないので、絶対に逃したくないですね。
麻木
えっ!たった10秒しかないんですか?
竹内
超新星爆発の光はずっと観測できますが、ニュートリノは最初の爆発の時にのみ検出可能な強度に達するのです。数十年に一度しか起きない超新星爆発、しかもその最初の10秒を確実に捉えないといけないわけですね。こうしたことからも、24時間・365日連続稼働が必須であることが、お分かり頂けることと思います。
麻木
華やかな研究成果の陰には、日々の地道な積み重ねがあったのですね。でも、またノーベル賞級の発見があるかも知れないと思うと、何だかとても楽しみです。本日はとても面白いお話を聞かせて頂きました。どうもありがとうございました。
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